そこから先は
「いないよ…」



駆の言った事を信じ、やっと目を開けた。



眩しい。



光だけではなく、光景そのものが眩しいように感じる。



初めて見る部屋―



あたしがしばらく生活した部屋―



あの人を好きになった部屋―



でも…



ここにもうあの人はいない。



あたしの近くにあの人はいない。



知らず知らずのうちに涙が溢れていた。



「小春…」



駆がまたあたしの名前を呼んだ。



あの人には一度しか呼んでもらえなかった名前を駆は何度も呼ぶ……



駆はあたしの頭に優しく手を置いた。



あの人の大きくて優しい手を思い出して、また泣いた。



駆は、あたしが泣いている理由を知っているような気がした。
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