しなやかな腕の祈り
あたしは…あたしは勇気を振り絞った。風呂場のドア越しに聞いてみたんだ。


「お母さん、何かあんの???話してよ。ずっと…ずっとスペインにいた理由」



って。



返ってきた言葉は、結構意外なものだった。



「あんたが帰る前日の夜に教えたげるわ」






その後、お母さんと会話はなかった。話しにくかった。お母さんはリビングで酒を飲み、あたしは部屋でテレビを見ていた。意味が分からない、スペイン語のニュース。



夜中、泣き声はやっぱり聞こえた。



もう一度勇気を振り絞ってみる価値はあると思って…あたしは階段を音を立てずにゆっくり降りていった。



リビングから光が漏れている。



中を覗きこむと、写真を覗きこんで泣く…お母さんの姿があった。写真に写っている人が誰かは分からなかったけど、お母さんの震える肩が、過去に何かあった事を知らしめていた。


音を立てずに階段を登って、部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。




お母さん



お母さんを苦しめてる



そんなに暗い過去って何???



あたしには、背負えないの???




ねえ、お母さん。



そんな事を考えながら、眠った。
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