しなやかな腕の祈り
とんでもない衝撃だった。さっきまでニコニコ笑っていた人たちの顔は突然引き締まり、フラメンコとかけ離れたフラメンコを踊っていた。



中でも、お母さんは別格だった。




第一舞踏手は一番前で踊り、その隊列のセンターが劇団の中で最も華麗に舞う『蝶』だ…。そんな事を、あたしにフラメンコを教えてくれている先生が言っていた。…お母さんは、一番前の隊列のセンターで踊っていた。


振り付けが完璧なのは言うまでもなく、手の振り、指先の伸び方、手首の回し方、視線の流し方…サパティアートを打つ回数の多さやハレオを上げる声。全て現地の人たちに勝っていた。



「Agui!!!」



全員が右手を振りかざし、ハレオを上げて踊り終えた時、あたしは無意識の内に拍手していた。こんなバイレは見たことがなかった。一死乱れぬ踊りのみならず、その踊りの中にちゃんとストーリーがあった。



「あんた、何が踊れる???」



水を飲みながら、お母さんはあたしに言った。



「ファンダンゴ…が得意かな」



そう答えるや否や、お母さんはあたしに着替えてくるように指示した。
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