しなやかな腕の祈り
『大事な事なんやから、俺かって行くの止めたりせんやん。
一言何か言ってけや、馬鹿たれ』

「ゴメン!!!本当ゴメンね」



平謝りしているあたしの声を聞いて、啓太はやっと笑ってくれた。



『会えたんけ??お母さん』



優しい啓太の声が、あたしは大好きだ。

啓太も啓太で非行に走ったクチで、付き合い始めた頃は2人でよく単車を乗り回したりして、一緒にお縄になったりもした。

だから、啓太は今でも見た目はギター演奏者には見えないくらいの悪っぷりである。

金髪にたくさんのピアス、右腕には大きな昇り竜の入れ墨が施されていて。

だけど、優しいんだ。

ふとした瞬間に見せる微笑みや、横顔から滲み出る優しい雰囲気が大好きで。



「うん、会えた。お母さん、ちょっとあたしに似てた」



あたしのその言葉を聞いて、啓太は"良かったな"と言った。

翌日に会うのを約束して、電話を切った。

明日は午前中に職場にも電話しなきゃいけない。

突然の長期休暇の申し入れも快く引き受けてくれた職場の人たちにもお礼を言わないと…

知らない内にあたしはまた眠っていた。
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