しなやかな腕の祈り
「久しぶりやから体鈍ってんちがう???」



隆弘が安全帯を付け直しながら話しかけてきた。



「さぁ…まぁ組の中ではあたしが一番体軽いし??」



いつものように笑いながら冗談を切り返す。

今日の現場での作業は至難を極めるだろう。

なんせ、地上15メートル地点での足場解体作業。

一つ間違えば大事故に成りかねない。



「ま、お互い気を付けていこうや」



我ながら、隆弘とはいいコンビだと思っている。

顔だけじゃなく、気も合う。

隆弘の家も母親だけだ。

隆弘が5歳の時に、父親の理由で離婚したらしい。

その事もあり、隆弘とあたしは良き仕事仲間であり飲み友達でもあった。



「うわ-…高けぇ…」



足元を見下ろしながら絶句している隆弘を横目に、あたしは足取り軽く足場の上を歩く。

怖がっていたら、いつまでも怖い。

鳶の仕事について1ヶ月足らずで、それに気付いた。

慎重に足場を解体していく。

あたしから少し離れた所で隆弘も作業に取りかかる。

作業に集中していれば、昼食まではあっという間だ。



「隆弘!!多嘉穂!!昼飯入れょ!!!」



午後の作業の用意だけして、下へ降りていく。
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