しなやかな腕の祈り

「今から飯でも行こうか」



隣に並ぶやいなや、啓太はそう言ってくれた。



「ゴﾒﾝ啓太、今から集会だ」



あたしがそう言うと
啓太は寂しそうな顔をした後に
突然不機嫌になって
あたしに背中を向けてスタジオへ戻っていってしまった。



「後で電話するからね」



背中に向かって呼びかけてみたけど
うんともすんとも言わなかった。





理由なら分かってる。


啓太は、親方のことも隆弘のことも
決して良く思ってくれていない。
もっと簡単に言うなれば
あたしが鳶の仕事をしていることすら
認めてくれていないのだ。



「返事くらいしろ、馬鹿啓太」



小さな声で呟いて車に乗り込んだ。





啓太は…分からない。

人に愛想良くすることを知らない。

同じ劇団の人にでも無愛想で嫌になることもある。

付き合いだす前は、啓太のそういう所が
あたしは好きだった。


いわゆる"ツンデレ"ってやつで
あたしから告ったんやから。


優しい啓太は好きだ。
だけど啓太が優しいのは
あたしにだけ……
"最高じゃん"なんて望美は言うけど
最近重荷なんだ。