しなやかな腕の祈り
「下りろ。テーブルから」



情けなくて笑えてくる。

そんなあたしの横で、親方も
何か訳の分からない歌を熱唱しては
一人で喜んでいる。

その歌に皆、手拍子打ってんだから世も末だ。



「親方!!!」



あたしの怒号も虚しく…逆に盛り上げてしまう。


最悪のパターンだ…



「ヤバいっしょお」



煙草を吸いながら、絵里ちゃんが厨房から出て来た。



「何か地獄絵図やね」



絵里ちゃんも苦笑いだ。



「ほとぼり冷めるまでほっとくしか、なくね???」



カウンターの空いた席に腰掛けて、あたしと絵里ちゃんは
その地獄絵図を疎ましげに眺めた。



「絵里さぁ」



しばらくして、絵里ちゃんは話し出した。



「また隆弘、振っちゃったんだわ」



白い煙草の煙を吐き出しながら
遠い目をして打ち明けてきた。



「隆弘はタフだからね」



あたしもあたしで返す言葉が見つからなくて
そんな中途半端な言葉を返してしまった。



「多嘉穂が隆弘と付き合えばええのに。
息ピッタリやし。
あのツンデレ彼氏と別れてさ」
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