しなやかな腕の祈り
「お母さん、海外公演いつ落ち着く??」


煙草をふかしながら、あたしは窓の外を見ていた。



『来月には落ち着くと思うけど』



酒の次は、何か食べている。



「曾根崎心中見に来てね」



無理だとは分かっていたけど
あたしはその無理なお願いをしてみた。



『いつだって???』

「再来月。2月」

『行けると思うよ』



神様っているんだね。
お母さんは、あたしの舞台を見に
帰国してきてくれる事を約束してくれた。





次の日から、あたしの練習には熱が入ってきた。
お母さんが来てくれるなら
あたしはやれる。




ただ、相手役は…あたしの大嫌いな奴だったけど。




別にそんな事どうでもいい。
お母さんに見せられる舞台を
あたしが如何に作るかだと思った。
相手役の男は自己中で
自意識過剰で、大嫌いだけど。
別に構わない。
大屋千秋という一人のプロダンサーに見せられる
立派な曾根崎心中を演じる事…
そんな意識が、あたしの中に『お初』を作り上げていった。
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