しなやかな腕の祈り
あたしは、その場で車を降りた。

不思議と涙は出なくて、降りしきる雪の中を
松阪へ向いて歩いて帰った。



傍目から見れば、あたしは
相当変な子だったに違いないけど
今更そんな事もう良かった。


知らない間に、あたしは何も求めなくなっていた。

啓太がいてくれなきゃいけないなんて
そんな昔の概念はもう無かったし
別れたからって、同じ舞台に立つ事を
ためらう訳でもない。

あたしに必要なのは
お母さんと同じ力だって
ちゃんと気付く事ができた。

お父さんと別れてから、たった一人
色んな闇と戦った女の娘として
あたしは何かに甘んじている場合じゃない。



道すがら、色んな男が車の中から声をかけてきたけど
あたしは耳も傾けなかった。

下心だけの野獣と遊んでいる暇はない。

歩く速度を早める。

秀一叔父さんか静香叔母さんに
迎えにきてもらおうと思っても
この渋滞じゃ来てもらうにも
来てもらえる状態じゃない。
歩くしかない。







「あれ???多嘉穂???」






横付けされた車の中から
あたしの名前を呼ぶ声がした。


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