花が咲く頃にいた君と
保泉の机の前に突っ立ったまま、顔だけこっちに向ける日高。

「冬は今日もバイト?」

「ん。バイトせにゃー、食っていかれんからね」

「行っていい?」

「未成年は立ち入り禁止です」


あたしは鞄を肩に担いで、教室を後にした。



あたしのバイト先は、ちょっと危ないバー。何でそんなところであたしがアルバイト出来るのか、それはある種、特別な家庭環境のせいだと思う。


「おはようございます」

その店は繁華街の裏道にある。

CLOSEの掛札がぶら下がった玄関から、挨拶と共に中に踏み込んだ。


店内は照明も無く薄暗く、何処か霞がかっているようにも見える。


「下宮比さん起きて下さい」

店の奥、3人掛けソファに、腕枕して足を組み、新聞をアイマスク変わりに眠る下宮比さん改め、店長が寝ていた。

新聞を奪い、丁寧に畳んでカウンターに乗せる。

「早くシャワー浴びて下さい。開店まで時間無いですよ」

これがバイト先での、日課。

「やだ、あと1時間…」

「そのまま、永久に眠ってしまえ」


眉間に深いシワを刻み体を捻った下宮比さんは、嗄れ声でとんでもない要求をしてくれる。

だからあたしは、白い目で彼に無慈悲な言葉を投げ掛けた。



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