花が咲く頃にいた君と
だいたい、5時になるとお店は開店する。

これでもまだちゃんと機能している方。

あたしがバイトに入った当初はそら、偉いもんだった。


下宮比さんの気分でお店は開けられ、5時だったり、6時だったり。
はたまた開けなかったり、それでも“お客さん”が集まるのは、下宮比さんの役得だろう。


更衣室に入り、世話しなく、学校の制服からバイトの制服に着替え、伸びっぱなしロングの髪をアップにして、慌ててホールに出た。


「ごめんなさい。木下さん」


髪を結いながら、出てくるあたしに、木下さんはいつも苦笑いを浮かべる。


「そんな急がなくても大丈夫ですよ」

木下さんの言葉に、もう一度謝ってお店の札をOPENにした。


あたしはホールスタッフで、あまりカウンターには入らないけれど、下宮比さんが来るまでは、嫌でもそのポジションにぶちこまれる。

お酒の飲めない未成年のあたしが、綺麗なお姉さん、お兄さんにカクテルを出すのだ。


今じゃ、下宮比さんに負けないくらいカクテル作りが上手くなった。



「おはよう。ふゆちゃん」

カランと扉にぶら下げたベルが音を鳴らす。

本日一人目のお客様は、常連の衣夜さんだった。

今日もビシッとスーツを着こなして、爽やかな笑顔と共に彼は店内に入って来た。

フレームレス眼鏡の奥で細められた瞳は相変わらず、何を考えているのか読み取らせてもらえない。

まさに、大人だ。


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