花が咲く頃にいた君と
ぐちゃぐちゃな頭、“どうして?なんで?”を繰り返しても、それは所詮自問自答で、答えなんて出るはずもなかった。


案内された部屋は、テラスの付いた正に“お姫様の一室”だった。


カーテンはレース仕立てのもの。

端には白のグランドピアノがあって、淡い桃色のカーペットが引かれていた。

何人掛けか分からないソファに、猫足のローテーブル。


見ただけで目眩がした。


「あの、」

「はい、なんでしょ?」

「他に部屋、無いんですか?」

「お気に召しませんか?」


お爺さんの表情が初めて変わった。

眉間にシワを寄せて、ちょっと困った顔になった。


「はい、無理です」


あたしはキッパリと言い切った。


お爺さんは“少々お待ちください”と言うと、あたしに背を向け、燕尾服の内ポケットからケータイを取り出した。


「…失礼します」

「えぇ、はい。案内したのですが…」

「はい、分かりました」


その言葉を最後に、お爺さんは電話を切って、こちらに振り返った。


「私どもでは、結女さまのご希望に添える部屋をご用意出来ませんので、自分でお選び下さい」


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