七狐幻想奇譚

狐面

夏の虫の鳴き声が響く中、時が止まったような感覚に陥る。



狐面の少年からは、人の気配が一切感じられない。誰にだってその人特有の匂いがするのに、匂いや音、それらが全部はじめからない―――。



桃花がぞっとし後ろによろけた時、狐面の少年が夏野と呼んだ少年がまるで守るように、前に出る。



と、止めなきゃ……。



「ねぇ、危ないよ……」



恐怖で、弱々しく紡がれた言葉に、夏野は安心させるように笑う。



「俺の心配はいらない。大丈夫だ、おまえの事は俺が守るから」

「どうして?」



それは純粋な問いかけだった。



夏野はそれには答えず、再び狐面の少年を睨む。ピリピリと張り詰めた緊張感に、桃花は思わず身を竦めた。



「そんなに怖い顔しないでよ。まだ、お祭りは始まったばかりなんだから」



狐面の少年がクスクス笑う。相変わらず何を考えているのか読めない。



その周りを狐火が自由自在に舞う。



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