ラスト プリンス


「………それは、僕へのあてつけですか」

 不意に聞こえてきた声の方を向けば、手を休めてこちらを見ているカイさんとかちりと目が合った。

 カイさんはクルクルと手に持っていた鉛筆を回している。

「……………やべ。怒ってる」

 ぽつり、と。
 頭上で呟いたのが聞こえた。

 怒ってるんですか、あれで。

 そうとは思えないほどの穏やかな表情であたし達を見ているですけどねぇ。

「………まあ、いいか」

「何が?」

 再び視界がぐらりと揺れ、真っ暗になり、とくんとくんと心地よいほどの音が耳に立つ。

 ……え?もしかして抱きしめられてる?

「ふーん。賭け、どっちが勝ったの?」

「勝負中だけど」

「そのわりには結構仲良しだよね。耕太ってヒドイよね。人が3日間愛する奥さんに会えないっていうのに、耕太は女の子連れ込むなんてさ」

「お前の場合、ただの痴話喧嘩だろ。妊娠初期はイライラするもんなんだよ!」

 妊娠初期って……カイさんの奥さん?

 ってことは、カイさん妻子持ちなんだ………はぁ。

 うん。不倫は良くないよ。

 しようとも思わなかったけど、あたしはカイさんのその甘い笑顔が見られれば文句なんてありませんっ。


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