ラスト プリンス
せめて、妻子持ちじゃなかったらな。
七夕の短冊に書いたって、流れ星にお願いしたって、到底叶わないお願いだけど、せめて、独身時代に出会いたかったわ。
でも、もし、独身時代に出会ってたとしても、玉砕だったに違いない。
頭の向きを変えて、じっとカイさんを見つめる。
「………なに、カイに惚れた?」
不意に耳元で囁かれたテノールの声に、頷きそうになってしまった。
「ばっ。違うわよ!」
振り返ってそれを否定すれば。
「向きになる辺りが怪しい」
新聞に目を落とす耕太は、マグカップに口をつけていた。
「………ムカつく。そうやって、人の揚げ足とる所」
「だって、本当のことだろ。 ん」
ん、って何よ? ん、って!!
耕太は、あたしの方なんか見ずに、マグカップを差し出す。
マグカップを受け取らなかった事が気に食わなかったのか、じろりと新聞からあたしへ視線を切り替えた。
「コーヒー」
「……は? だから、何よ」
「バイト、するんだろ? ここじゃあ、高校生にやらせる仕事なんてそんなにねぇんだよ。 だから、お茶汲み」
耕太がマグカップで指した先には、ポットと二つのコーヒーメーカーが置いてある。
それが置いてある棚の下には、コーヒー豆やティーバッグの紅茶、日本茶、そして、急須。