-KAORI-
「ありがとうございます。…おじゃましまぁす。」
玄関の側の階段を、一歩一歩ゆっくりと歩く。
健の部屋は、何度が入ったことがある。
コンコン
ノックしても、中からは笑い声しか響いていない。
コンコン
もう一度、ノックすると、中の笑い声が少し小さくなった。
そしてドアを開けた途端、目を疑った。
『あかりぃ!中入れよっ!』
部屋の中は、何かの煙で真っ白になっていた。
煙草の匂いと、なにかツンとくる匂いが混じっていた。
何個かの香水の匂いも、かすかにする。
『そこ、座れよっ。』
指差されたソファーに腰をかけると同時に、目の前に健ではない男の人が立っていた。
『健の女かぁ?相手、せろよ。』
しゃがみこんだ男の人の瞳は、真っ直ぐで吸い込まれていきそうだった。
『それ、もう俺の女じゃねぇよ。なぁ、あかり。だけど、やることだけは出来るだろ?』