満たされしモノ
なんとなく話し掛けづらい雰囲気だが、僕は悪いことを何一つしていない。


気後れすることはないのだ。そう自分に言い聞かせて気合いを入れる。


「不知火――」
「パンタゴンに行っては駄目デス」


出鼻を挫かれてしまった。


しかも不知火の口調は有無をも言わせぬような堅く重いもの。


「あのさ……、なんでそこまで拘るの?


いくら戌亥先輩って人が危険だとしても警戒し過ぎじゃないかな」


正直、僕は半ば呆れていた。


不知火の態度は全く理解出来ない。


だが、僕の言葉を聞いた不知火は物凄い勢いでこちらを睨み付けてくる。


「警戒し過ぎデスって……!! 本間君、それ、本気で言っているのデスか!!


貴方は……――」

「それ以上は言うな。不毛だ、不知火」


穴夫の制止によって不知火はピタリと動きを止めた。


「ツっ……!! ……確かに……、そう……デスね……」


彼女は徐々に冷静に、そして面持ちが暗くなっていく。


……益々もって訳が分からない。


どうしてそこで不知火が意気消沈しているのだろうか……


分からない……


 
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