満たされしモノ
すっかり暗い雰囲気になってしまった……


教室の中は談笑などで比較的賑やかだったが、僕達のいる一画だけ空気が重い。


しかも、幾人かの生徒が何事かと、こちらをチラ見してくる始末だ。


そんな中、穴夫は場を取り持つように言葉を紡ぐ。


「まあ、なんだ……。刀矢も不知火の気持ちを察してやれ。


もちろん、俺の気持ちもな……」


普段、穴に関する話題しかしない穴夫が真面目に心配してくれている。


その様に、僕はなんだか胸を打たれるものがあった。


ここは素直に応じよう、そう自然に思えた。


「分かったよ……」


頭を掻きながら小さい声で応える。少し照れくさかったのだ。


不知火は僕の方を見なかったが、小さく頷いてくれた。


取り敢えず、最悪は脱した――


「分かってくれたか。では、尻を差し出すべし」


――という事はなかった。


「では、って何だよ!! 話に脈絡がないよ!!」


「脈絡ならあるぞ。何故なら、刀矢は俺の気持ちを察してくれたのだから」


僕はとても後悔していた。


てっきり、穴夫も不知火と同じく、僕を心配しているのだとばかり思っていた。


だが、相手は『あの』穴夫だ。


常に穴のことしか考えていないのだ!!


 
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