満たされしモノ
《こらぁー……、やめなさぁーい……》


不知火の暴虐を止める声が外から聞こえてくる。


どうやら……、吊られている人物が声を発したらしく、生気のない虚ろな目で僕達を見ている。


……冷静に見てみれば、その人物は僕のよく知る人物。


というより、僕達の担任だった。


「いい加減に慣れろ、刀矢。先生の現れ方なんていつも同じだろうが」


穴夫は僕を助け起こしてくれたあと、先生のために窓を開けた。


確かに一年を通しての光景だが慣れたくはない。むしろ穴夫の冷静さに感心するよ。


「堀君、ありがとね……」


ボソボソと礼を述べる先生だったが、一向に教室へ入ってくる気配がない。以前、吊り下がったまま。


――


『操吊り人形(パペットハングマン)』


それが僕達の担当に与えられた名前だ。
ちなみに多くの生徒はパペット先生と親しみを込めて呼んでおり、僕もそれに倣っている。


それで、何故パペット先生が宙吊りで現れたかというと……


本人曰く、地に足を着けたら死ぬらしい……


最初に聞いた時は馬鹿馬鹿しいと思った。


だが、この一年間で着地する姿を見たことがないので本気……なのか、な?


謎多き教師である。


 
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