無色の日の残像
「アハハハ。そいつは言えてる」

 アイス・コーヒーの入ったグラスを三つ持って、若いマスターがテーブルまでやってきた。

「ちなみに俺も、ホラこのとおり。性格悪いよ?」

 そう言いながらテーブルにグラスを並べるマスターを、新見少年が物言いたげに見上げた。

 気を殺がれた空気は、風船が萎むように椅子に座る。

「あの、マスター」
「ハイハイなにか?」

 新見少年は並べられたグラスを指さした。

「注文してないです」
 それが言いたかったらしい。

「ああ、軍宛で領収書切っておくから、どうぞ。必要経費でしょこのくらい」
「いや、僕は本当なら休暇中なので──まあいいか」

 マスターの商売スマイルに押されて、新見少年は頷いた。
 このマスター、商売気がないかと思ったら、意外とそうでもないらしい。

「あの」
 立ち去ろうとするマスターに、新見少年が再び声をかけた。

「ハイハイ、まだなにか?」
「僕、コーヒーは苦手なので、何か別のにしてください」
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