無色の日の残像
「なんだよ。ヤな奴かと思ったら、意外とイイ奴じゃん、お前」
「それはドーモ。頼むから勝手に弄るなよ」
「うひょ、すっげェ──」
「ちょっとクウ、押さないでよ、狭いんだから!」

「おい、もう離陸するから、座席に掴まって大人しくしてろよ。怪我しても知らないよ」

 無色は後ろで騒ぐ二人にそう言って、戦闘機を飛び立たせた。

 今、彼らがいるのは、無色が乗ってきた戦闘機のコックピットである。

 一人乗り用の機体内には当然、一つしか座席はない。
 空気と羽海は、無色が座る操縦席の後ろにある僅かな空間に、身を寄せ合って納まっていた。

 空気も羽海も、軍の──しかも東側の──戦闘機に乗るのは初めての経験だ。

「へえ? 思ってたよりも全然、加速の衝撃とかってないんだな!」

 離陸した機体の中で、空気は興奮しながら操縦席の背もたれを叩いた。

「当たり前だよ。垂直離陸した上に、超低速飛行してるんだから。きみら二人乗せて急加速なんてできるワケないだろ」

「やっぱコレって、滑走なしで離着陸できるのか! すっげェなあ」

 そう言う空気に、「はあ? 珍しくも何ともないよそんなの」などと操縦桿を握った無色が冷めた答えを返す。

 戦闘機と一緒になって舞い上がっている空気の横で、羽海はやや沈んだ顔をしていた。

「大丈夫かな? さっきのおじさん、修理には結構時間がかかるって言ってたけど──」
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