無色の日の残像
「生き物の体の設計図はね」と透明が説明した。

「生きてる間にどんどんガタがきて、ボロボロになっていくんだって。

 それから『テロメア』っていうのは、命の長さを決めるものよ。

 この設計図の傷みと、命の残りの長さは、クローンを作る時そのまま持ち越しになっちゃうの」

 空気と羽海は、少女の真っ白な髪の毛を見つめた。

「極端に言っちゃえば、残り五十年しか生きられないドナーから核移植で作られたクローンは、生まれながらにして残り五十年しか、残り十年しか生きられないドナーなら、そのクローンは十年しか生きられないってこと」

「僕らのドナーは五十代後半の女性だったんだってさ」と、無色が言った。

「つまり僕と透明は赤ん坊の時点で、既に中身は六十歳に近い年齢だったってこと」

 空気と羽海は言葉を失って、ただただ目の前の少女たちを眺めることしかできなかった。

「だから、あと何年生きられるのかはわからない」

 そう語る無色の灰白色の髪の毛は、染めているわけではなく、遺伝子の異常で生まれつきこの色なのだ。

 そして透明の長い髪の毛は、無色のそれよりもずっと真っ白だった。

「透明は僕よりももっと遺伝子の欠損が激しくて、色んな薬がないと生きていけない体なんだ。だからずっとここに入院してる」

 彼らの父と母になる予定だった人たちは、東側では名の知れた資産家だったのだそうだ。

 一人娘を戦闘の巻き添えで失った老夫婦は、金に物を言わせて違法に娘のクローンを作らせた。

 既に五十代後半だったその女性の細胞では──テロメアが短いこと、また戦闘による汚染で核DNAの損傷が酷かったことなどから──まともなクローンは作れない、と言われ、わざわざ「予備」にと二人もクローンを作らせたのだそうだ。

 無色と透明。

 ひょっとしたら、他にも何人か作成させていたのかもしれないが、無事に生まれたのはこの二人だけだった。
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