無色の日の残像
「軍が実験のために僕らに色んな薬や治療を施してくれなかったら、僕らはこの歳まで生きてこれなかっただろうし、両親になるはずだった人たちは、僕らを生み出してくれたんだもの」

 死んでしまって残念だったとは思うけどさ、と無色は呟いた。

「お父さんやお母さんがいるって感覚は、どんなものか経験してみたかったな」
 相変わらず淡々としている。

 ふと、視線をそんな無色から車椅子の透明に移して、空気は驚いた。

「そして、そもそも彼らの娘が戦闘に巻き込まれて死ななければ、僕と透明はここに存在していなかったんだから──何も酷いものなんてないよ」

 きっぱりとそう言う無色の横で、車椅子の少女は困ったような──今にも泣き出しそうな微笑みを浮かべていた。

「僕は全てに感謝してる。だって僕と透明を作ってくれた。僕に、大切な透明を与えてくれた。設計図が欠けていて、長く生きられなくて、でもそれが僕の透明なんだ。全部ひっくるめて、大好きな透明だから」

「ありがとう無色」と、透明が消えてしまいそうな表情で言った。

 空気は最後まで、何も言えなかった。
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