無色の日の残像
 取り残されてボーゼンと立ち尽くしていた無色は、突然背後に気配を感じて弾かれたように振り向いた。

「へーえ。銃口なんて向けられたの、久しぶりだなあ」

 振り向き様とっさに少女が構えた拳銃のその先でそう言ったのは、雨鳥だった。

「マスター──」
「雨鳥でいいって」
「雨鳥さん、あなたはやっぱり、軍にいたことが──」

 無色は拳銃を構える腕に力を込めて、雨鳥を睨んだ。

「何の目的で、僕たちに宿を提供したんですか? あなた、いったい──」
「無色くんはどうして空気くんと羽海ちゃんを庇ったのかな?」
「え──?」

「あの二人、国境を越えてこの東側に侵入して、普通ならただで済むワケがないんだよねえ」

 無色は黙った。

「西側のスパイだって可能性があるんだよ? こんな緩い拘束なんて有り得ないね。連行されて取り調べられて──西側になんて十年は戻れない」

 雨鳥は確信に満ちた口調で語った。

「だからキミは、彼らのことを上には報告していない。少尉の立場を利用して、情報を自分のところで止めたんだろ? 責任は自分が持つとかって言って。何故だ?」

 無色は答えない。
 答えられない。

「だからだよ」
「え?」
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