あの男は私に嘘をつく

麗華姉さんも私が思ってることが
分かったみたいで、何も言わずに
ほほ笑んだ。


そして、静かに口を開いた。



「私は、子供とか…無理だし、
恭子ちゃんだけなのよ。
あの人の血をひいた子は。
だから、余計可愛いのよ。
自分の子みたいで。」



私は何も言えなくて俯いた。
こんなこと分かってたのに、
麗華姉さんに話させてしまった
自分が許せなかった。
でも、ごめん、なんて言葉を
言うと、同情しているように
思われて嫌だから、言えなかった。



すると、奥にいたおじちゃんが
やってきて、




「ほらっ、もう遅いぞ。
母さんを心配させんなよ。」


そう言って、私の腕をひき、
ﾄﾞｱの外に追いやった。
おじちゃんの脇の
あいだから見えた麗華姉さんに
手を振った。



「ほらっ、帰った帰った。」




おじちゃんの足蹴りのせいで、
私は若干よろけた。



「帰りますよｰだっ!!!
おじちゃんのばぁか!!!」


あっかんべーをして小走りで帰った。
後ろから、おじちゃんの野太い声で、
寄り道すんじゃねぇよっ!!、とか
聞こえてきたけど、振り向いてまで
言い返さなかった。



私はおじちゃんの言いつけ通りに、
そのまま家に帰った。
家には母はおらず、机にお金だけ
置いてあった。お金は財布にしまい、
ｴﾌﾟﾛﾝをつけ、台所に立った。



おじちゃん…、心配する親なんて
私にはいないんだよ。