アザレアの花束を


その涙はあまりにも綺麗で、彼女が吸血鬼だと忘れてしまうくらいだった。


だけど、吸血鬼は涙を流せないはずじゃ……



「私は部屋で休むわ。そして次私がホールに現れる前には、もう出て行きなさい」



おやすみ、


本来吸血鬼には縁の無い言葉を言って、彼女も部屋へと戻っていった。






俺がこの洋館にいるのも最後かと思うと、急に寂しくなった。




本当に短い間だった。


玲さんに拾われて、海さんに吸血鬼の厳しさを教え込まれて……


ふたりはまるで家族のようだった。




そのふたりから離れることは、すごく寂しい。


もしも、俺が人間になってふたりに会ったら……


もう違う生き物で、

俺は狩られる身かもしれない。




そう考えると、ぞっとするけど、


ふたりなら俺をわざと視界に入れないと思う。




なんとなく、そう思える。


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