水《短》
進行方向とは逆に流れる水の中に、素足を入れる。
もともと人よりも白い私の肌を撫でていく、水は。
ひんやりと心地よく、優しかった。
その感覚を直ぐには手放したくなくて、私はできるだけゆっくりと歩いた。
足に当った水が、弾け飛んで膝を濡らす。
耳に届くのは、様々な虫の鳴き声、鳥の歌声。
揺れる木漏れ日が、私の体を包み込む。
…子供の頃、ここで過ごした時間を思い出した。
春は桜、夏は虫を採り、秋には紅葉を見て、冬には白銀の世界に戯れた。
季節が移り変わるたびに新たな生命を生み、彩を変える
山は、美しかった。
この村で唯一、私が愛せた場所だった。
だからこそここを、私と、私の子供の死に場所に選んだ。
歩きつかれて野垂れ死んで、この美しい緑の中で、木漏れ日に包まれて死ねたなら、それでいいと思った。
.