―ユージェニクス―

―8―



「それにしても……僕と同じ業者の方が来られているとは思いませんでした」

手にしたレポートに専門的な数値を記入しながら、折笠はぽつりと口を開く。


検査を地下から始め順調に進めてきた泉と折笠は、今研究所の半ばの階に上がって来たところだ。


「私もそれは思ったわ折笠さん、二つの業者に検査頼むなんて変わってるもの」

言って泉は眼鏡の奥で苦笑する。

「よっぽど事細かに調査して欲しいのかしらね」


泉がここに派遣されたのは今回が初だが、泉の勤める建築調査部がこの研究所のお抱えだとは聞いている。

なのに、そこにもう一人……


「ねぇ折笠さんって若そうだけど、いくつなの?」

泉は興味あり気に問い掛けた。

「……佐倉さんよりは年上だと思います」

さらりと目線を投げられる。

「人が言うには僕は、顔が幼いらしいんですが…」

「そ、そうなの…ごめんなさい、私タメ口きいて」

「いえ、そういうのは気にしない方なので」

相変わらず無表情の対応で返ってくる。

だが彼にしてみればどうやらこの態度が普通らしい。

(営業に向かなそう……)

泉が愛想笑いで切り抜けた時、


「おい、何してんだ?」


低めの男の声が掛けられた。


二人して顔を上げると、そこには何やら資料片手の研究所員がこちらを見ている。


部外者を見る訝し気な目付きに気付き、泉は咄嗟に笑顔を作った。

「失礼しています、私は……」


「建築調査の者です」


すっと折笠が手前に出る。

所員の男の背が高かったので見上げる形になった。

「おまえ……」

男……管原は折笠に対し首を傾げる。


「建築調査だ?」

折笠が名刺を出したので管原は素直に受け取った。

「……あぁ、アンタの会社か!聞いてる聞いてる」

そして理解したのか面立ちが軽くなった。


「悪いな、ちょっと立て込んでて顔合わせられなかったわ」

「いえ」

「で?そっちの美人さんはアンタの助手かな?」

泉は口元で笑った管原と目が合った。

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