テディベアは裏切らない




ある、昼休みのことだ。

購買部にパンを買いに行って戻る時、渡り廊下を歩く。見上げれば、夏の日差しは真っ白になって私達を照らしていた。

夏は、私にとって、寒い。心が、寒くなる。そのくせ日差しは暑いのだから、現実と精神との差が激しくて、摩擦が起こって、気持ち悪くなる。私がよろけると、レナちゃんもほたるちゃんも貧血を疑う。私は文系で、運動が下手で、色が白いから、なおさらに。

でも違う。そうじゃない。私はただ、私の罪から、その重さから、よろけただけ。当然の報いを受けているだけなのだ。情けない。自分で背負ってる、十字架なのに。

「……ちっ」

と、舌打ちが聞こえ、ハッと顔をあげたなら、壮馬くんの背中が遠ざかっていくところだった。どうやら彼も、購買部に昼食を買いにきていたらしい。たぶんまた、カロリーメイトだけだろうなと思う。右手に持ったビニールの中には、黄色い箱が透けて見えた。

彼は、私の傷を知っている。私の傷を癒そうとしている。

そんなことできないし、させないのに。

私は、あまり壮馬くんと目を合わせられない。合わせたくない。

たぶん、彼のカラスのような黒い眼を見た途端、私は解剖されてしまう。そんなの、させたくないし、されたくない。私のなにもかもを、彼は紐解こうとするだろうから。だから特別な用事がない時にはいつも、私はあえて彼を視界から外す。今は俯くことで。
壮馬くんも、私がそういう態度なのはわかっているから、さっさと校舎へ入ってしまおうとしていた――のに。

「待ってよ。いまの、なんのつもり?」

レナちゃんが噛みついた。
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