テディベアは裏切らない
「小説家に、なりたいの」

と、自分の唇で言ってみた。それを、私の席の左右に立って話していたレナちゃんとほたるちゃんに拾われたのは、ずっと前のこと。

なんの脈絡もなく言った言葉だったから、その時はそのまま、それが私の夢だと思われた。でも、いいかな、と。

私の夢が小説家に決まったのは、高校に入学して一ヶ月くらいした時だった。でも、それでよかったと思ってる。

夏になると、彼女を思い出す。

行き場を失った彼女の居場所を、私は、私の中に作り直す。

そうだ。これからやって来る夏休みにひとつ、小説を書こう。それをどこかの賞に投稿しよう。

あの時の彼女は、じくんじくんと、私の中に疼き続けている。大丈夫だ。彼女が彼女を取り戻せなくても、誰もあの時の彼女を思い出せなくても、知らなくても、覚えていなくても、私の中でだけは、一生、消させない。私が、抱き締めているから。

傷の疼く夏は、寒い。彼女が凍えてしまわないように、どんな時よりも気をつけないといけない。ちゃんと包み込み込んであげないと、心は、彼女は、私の中の傷は、震えてしまう。

だからもっと、本を読む。

いつの間にか、レナちゃんやほたるちゃんと最後になにを話したのか、思い出せなくなっていた。


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