テディベアは裏切らない




「どんな話を書いてるの?」という質問は、そう、私が彼女に、「その本おもしろい?」と訊ねた時のように、とても自然なものだった。それに対して彼女が、しどろもどろしながらも本のタイトルを教えてくれたのは、やっぱりとても自然な流れだったろうけど、同じように私が、質問してきたレナちゃんに小説の内容を明かすことは、できなかった。

「もったいぶらずに教えろよーう」

とほたるちゃんも加わったけど、私はくすぐったそうに笑うしかない。

「えーっ、恥ずかしいからダメぇ」

恥ずかしい? ああ、私のうそつき。本当はただ、小説の内容を知られたくないだけ。
夏になったら投稿しよう――そんなことを思った私も、うそつきだ。だって、この小説は誰にも読ませたくない。この小説を読む資格があるのは、彼女だけ。なぜならこの小説は、私の贖罪のストーリーだから。

許されたいんだと思う。許されなくてもいいと思いながらも、空想の仲だけででもいいから、私は許されたいんだ。それくらいの自覚はちゃんとある。

でも、許されるわけにはいかないのもよくわかっているし、結局一周して、許されるつもりだってない。それでも心が勝手に泣くから、私は自分に砂糖を与えているんだ。せめて空想の中でだけは、自分で自分を許してあげる。

だって、彼女を抱き締めている私を抱き締めてあげる私が、先の見えない贖罪にも耐え抜ける私が、幻想の中にでも必要だから。小説は私が彼女から引き継いだ彼女の夢であると同時に、今の私が腐りだしてしまわないための防腐剤だ。
< 24 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop