テディベアは裏切らない
私は過去の私に助言することで、同じ過ちを繰り返さない、新しい未来を小説の中で送っている。そうして、彼女が幸せになってくれれば、私は許されるし、私の贖罪にもなる。だけれど、彼女の反応も、彼女の「ありがとう」も、すべて私が作り出したものだと自覚するたびに、物語の意味がなくなっていく。

私は、せめて幻想の中だけでも自分に甘いお菓子をあげたいのに、そのお菓子の甘さが、結局は彼女から捏造した「ありがとう」で作られているんだと思うと、ダメになってしまう。

自分で自分を許すなんてこと、おかしい。

小説は、いつまで経っても書き終わらない。エンディングを迎えられない。

私を許す権利があるのは、彼女だけ。そうだとわかっていても、私は、心の中の私のために、紛い物の砂糖菓子を与えようとする。たぶん、最後までいったらまた抹消してしまう、救いのない救いの物語を。

終わりはないし、終わらせられないとわかっているけれど、そのための時間を割かずにはいられない。自虐じゃない。自戒だ。

そのためにも夏休み、私は缶詰になるつもりだった。海に行っている時間は、ちょっとありゃしない。家族の用事で田舎のおばあちゃんの家には行くけれど、その時にもノートパソコンを持っていくつもり。もし持っていけなくても、ノートとシャーペンがあれば、小説ぐらい書ける。おばあちゃんの家でも缶詰はできる。
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