テディベアは裏切らない
たしかにわかってる、そんなことは。ただ、会話の切り口がほしかっただけ。もしくは、ユウちゃんに会話の切り口を、あげたかっただけ。

「さゆりん……ひとりで、ずっと抱え込む気かい」

「そのつもりだけど?」

「どうして?」

「どうして?」

その質問を、鼻で笑った私がいた。

「じゃ、逆に訊きますよ。ユウちゃんや壮馬くんは私をどうにかできると、思ってるの? 二人は、死んでしまった私の親友を『返して』くれるの? そして、私が殺した私も『返して』くれるの? そんなことが、できると思ってるの?」

「それは……」

ユウちゃんがそこで考え込んだのは、なんのためだろう。一番は、即座に、そして簡単に「できると思ってる」って答えることの無意味さを理解しているからだと思う。裁縫部の二人は、あの時の私よりも一枚上手だ。ただ善意を、押しつけるんじゃない。相手に見合った処方箋を用意する。壮馬くんも、ユウちゃんも、その感性はとても鋭い。だから片時も油断できない。彼と彼女に、私を解きほぐされないためにも。
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