学び人夏週間
「あのまんまですよ。いつもヘラヘラしてます」
いつも笑ってて、楽しそうで、ちょっと頼りないけれど、いざというときは私を守ってくれる。
なんて言わない。
これ以上いい印象を持ってほしくない。
でも、悪くは言いたくない。
どう言うのが適切なんだろう。
こんなことで悩んだって、さっき彼女が俊輔に抱きついた事実は変わらないとわかっているけれど。
わたしの胸中など知らない小谷先生は微笑む。
「そうなの? ああ見えて、仕事中はしっかり先生してるんだよ」
仕事中……。
私の知らない俊輔を知っているのだと、見せつけられたような、嫌な感じがした。
もちろん、小谷先生はワタシと俊輔が付き合っていることを知らないし、私を貶めようという意図でそう言ったわけではないと、頭ではわかっている。
でも、心は平穏を保てない。
私は彼と一緒に合宿に参加していたって、生徒を指導している姿など滅多に見られない。
先生をやっているカッコいい彼の姿を、小谷先生は日常的に見ている。
嫉妬でずんと胸が疼く。
「へぇ。しっかりしているところなんて、全然想像できないなー」
ひきつりそうな顔を、精いっぱい笑顔にする。
私の知らない俊輔を知りたい。
でも、小谷先生の知らない俊輔は知ってほしくない。
もっと堂々としないと。
彼の彼女は、私だけなのだから。
……たぶん。
「彼女とかいるのかな?」
「えっ」
サラッと、何でもないような感じを装って尋ねてきた。
小谷先生、本当に何も知らないんだ……。
いっそのこと、私が俊輔と付き合っているのだと言ってしまおうか。
私が彼女であることを知れば、諦めてくれるかもしれない。
……でもやっぱり、俊輔を“職場に彼女を連れてきた不謹慎な男”にするのは嫌だ。
「いますよ、彼女。あんなのでも一応ね」
私はまた必死に微笑んで、そうとだけ伝えた。
だけどすぐに視線をそらし、手でバシャバシャ顔をすすぐ。
今の表情を見られたら、バレてしまうような気がした。
せっかく俊輔がこの塾で築き上げた『市川先生像』を、私のエゴのために崩してはいけないと思った。