学び人夏週間
風呂から上がって髪を乾かしている時、化粧水をコットンでつけている小谷先生が、何か言った。
ドライヤーの音で聞こえず、一旦スイッチを切る。
「何ですか?」
「あ、うん。佐々木先生って彼氏いる?」
……え、このタイミングで?
ギクリと肩が震えた。
聞かれたのは彼氏の有無だ。
誰だとは聞かれていない。
「いますよ、一応」
そう応えると、小谷先生は目を輝かせた。
「やっぱりいるんだ! そりゃいるよね。佐々木先生、キレイだもんね」
彼女はたぶん、私の彼が俊輔だとは思ってない。
「ありがとうございます。小谷先生は、どうなんですか?」
尋ね返すのが自然だと思い、そうした。
小谷先生は「あはは」とおかしそうに笑いながら答える。
「残念ながら、いないよー。もう1年くらいいないかな。新たな出会いもないしね」
「好きな人は?」
これも、そう尋ねるのが自然だと思ってそうした。
彼女の表情が、微かに切なく歪む。
「好きな人なら、いるにはいるけど。なかなかねー。上手くいかないんだよね」
コットンをゴミ箱にポイっと捨て、乳液を手に広げてその手で顔を包む。
その好きな人とは、俊輔のこと……だよね。
小谷先生は笑顔のまま続ける。
「私って結構積極的にアピールする方だと思うんだけど、ダメみたい。全然振り向いてくれないの」
複雑な気持ちだ。
小谷先生には幸せになってもらいたいけど、俊輔が彼女になびかないことに大きく安心する。
「そうでしたか……」
そんなことないですよ。
小谷先生なら、もう少し頑張れば落とせちゃいますって。
なんて、言えるわけがない。
私は安堵と罪悪感のジレンマに苛まれ、彼女に気づかれないようにため息をついた。