学び人夏週間

「ドライヤー、途中で止めさせちゃってごめんね。髪、乾かして」

小谷先生が申し訳なさそうに笑う。

「はい」

私は再びドライヤーのスイッチを入れ、髪にあてた。

私の太くて長い髪はなかなか乾かない。

小谷先生は大きな声で「お先に!」と言って、女風呂から出ていった。

『全然振り向いてくれないの』

……か。

俊輔、ちゃんと意思表示してくれてるんだ。

やつには優柔不断なとこがあるし、小谷先生は可愛いし、もしかしたら押しに負けて浮気するんじゃないかと。

あるいは普段「好き」だの「愛してる」だのと全く言わない私なんか捨てて、愛情を表現してくれる彼女に乗り換えるのではないかと、心配してたけど。

こんな私が、好きってことだよね。

心に沸き上がる愛しい感情に、じれったさを感じる。

だって、ここは合宿所で、私たちは講師として勤務中。

どんなに俊輔を愛しく感じたって、抱き締めることもキスをすることもままならないし、それ以上のことができるわけもない。

ドライヤーを切って、鏡に映る自分を見つめる。

化粧を落とした、すっぴんの私。

15歳の頃とは、少し顔つきが変わったような気がする。

いろんなことを覚えて、経験して、できるようになったし、逆に捨てたものもある。

私だってかつては松野のように、友達との関係をこじらせて悩んだ。

片想いに胸を痛めたことだって、たくさんある。

辛くても、腹が立っていても、笑顔を崩さず発する言葉には思いやりを忘れないこと。

自分の感情をコントロールする。

大人になるとは、もしかしたらその技術を身につけることなのかもしれない。


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