学び人夏週間
「書いた人によっては私でもわかるくらい日本語が間違ってたり、誤字脱字もあったりしますけど。でも、普通の本より手軽で読みやすいし、簡単だし、結構おもしろいし感動しますよ」
きっと本当にそう思っているのだろう。
朝のため息三昧が嘘のように目をキラキラさせている。
「そうなんだ。松野がそれほど言うなら、おもしろいような気がしてきた。私もひとつくらい読んでみようかな。オススメ、ある?」
私が興味を示すと、松野はバッグから携帯を取り出し、ササッと操作した。
そしてすぐに画面を私に向ける。
「これ、オススメです」
表示されているのは『隣の山田くん』というタイトルの小説のページだった。
ページには小説の説明が書かれているが、画面から切れていて、スクロールしないと最後までは読めない。
なるほど、携帯小説とはこのようになっているのか。
「どんな話なの?」
「隣の席の男子を観察する話です」
「観察? それ面白いの?」
「はい」
松野は自信満々頷く。
私はタイトルを机にあった付箋にメモして、粘着部分が露出しないように折り、着ているジャージのポケットへ入れた。
「寝る前に少し読んでみるね」
「先生、きっと読み終えるまで眠れなくなりますよ」
「ほんとー?」
松野とは、このまましばらく世間話を続けた。
勉強や宿題は進まないけど、今はそうすることが必要だと思った。
友達とはケンカしてしまったかもしれないけど、彼女を気にかけている人がいるのだと、ひとりではないのだと、わかってもらいたかった。
ーーガラガラ……
部屋のドアが、遠慮がちに半分開けられた。
顔を覗かせているのは、田中先生だ。
「あの。十時です……」
それだけ告げて、さっさと次の部屋へと行ってしまった。