学び人夏週間
「ねえ、松野」
私は彼の去った扉から目を話さずに声をかける。
「何ですか?」
「田中先生って、どんな先生?」
たった4日では、あまりにも掴めない。
もっと私からグイグイ話しかけてみたらいいのかもしれないが、田中先生本人から、それを許さないオーラが出ている気がしてならないのだ。
人を寄せ付けない雰囲気を醸し出しておいて、ちゃっかり人気がある。
眼鏡を外した顔は見たことがないけれど、私の見立てでは、まぁまぁキレイな顔をしているのではないかと思う。
思考を巡らしていると、松野は迷いなくサラッと答えた。
「いい先生ですよ。おもしろいし」
「えっ、おもしろいの?」
怪談はおもしろかったけど、笑い話もしたりするのだろうか。
想像がつかない。
「基本的に物静かですけど、話のネタは豊富だし、特技も多いし、どんどん気になる存在になっていくって感じで」
「ああ、それは何かわかる気がする」
この後のミーティングで、田中先生と話してみようかな。
もう少しどんな人か知りたい。
「うちの塾の女子、田中派と市川派がいるんです」
「えっ!?」
なにその派閥。
どっちが人気なの?
俊輔だと言われたら生徒に彼を取られる心配をしなきゃいけなくなるし、田中先生だと言われたら自分の彼には魅力が足りていないのかと心配になる。
どっちと言われても、彼女としては複雑だ。
「ちなみに松野は?」
「断然田中派ですね」
「断然……」
彼女としては、やっぱり複雑。