学び人夏週間
“隣の山田くん”
携帯で検索をかけてみる。
すぐに同じタイトルの小説がいくつかヒット。
しかしどれも違う人が書いた作品のようだ。
たまたまタイトルがかぶってしまっているらしい。
松野に見せてもらった表紙のページの記憶を頼りにその小説へ辿り着く。
よし、眠くなるまで読んでみるか。
「電気消すよー?」
小谷先生が眠そうな顔で壁のスイッチに手を触れている。
「あ、はい。ありがとうございます」
私がそう返すとすぐに明かりが消され、私の携帯の画面が発する光が壁に薄く影を作る。
小谷先生はあくびをしながら布団へ入った。
「おやすみー」
「おやすみなさい」
私は携帯の明かりが彼女に当たらない態勢をとって、“隣の山田くん”の『読む』ボタンをクリック。
小説はこのような話だった。
*****
クラスで特に目立たない男子生徒、山田くん。
イケメンといえるほどカッコよくはないが、決してブサイクではない。
成績も、特によくはないが、決して悪くもない。
スポーツも以下同文。
席替えでたまたま山田くんの隣の席になった主人公は、無個性な彼の個性を見つけたくなって、こっそり観察を始める。
そして観察を続けているうちに、自然と彼との距離が縮まり、彼に恋をしてしまう。
現代文の授業中の、眠そうな顔がいい。
休み時間に友達と過ごすときの、あどけない笑顔もいい。
テストの時の真剣な表情にドキッとした。
体育が終わったときに体操着を脱いで汗を拭う姿を遠くから見た日には、その後の授業で集中できなかった。
ある日、主人公は友達との恋バナで山田くんへの気持ちを相談するが、『えー、あの山田?』とバカにされてしまい、ケンカになる。
落ち込む主人公を山田くんは不器用に慰める。
優しい彼を、主人公はますます好きになる。
数日後、主人公はクラスで人気ナンバーワンのイケメン男子生徒に告白される。
イケメンくんも主人公が落ち込んでいることに気付いて、たまらず手を差しのべたくなったのだ。
主人公は山田くんへの気持ちを確信しているので、イケメンくんを振る。
しかしそのことがイケメンくんの取り巻きのファンたちにバレ、嫌がらせを受けるように。
主人公はますます落ち込む。
ある日、山田くんは嫌がらせの現場に遭遇し、主人公をかばう。
「どうして助けてくれたの?」
そのせいで、明日から山田くんが標的にされるかもしれないのに。
「友達が困ってたら助けるのは当たり前だろ。そもそも君は悪くないんだし」