夢みる蝶は遊飛する
それは、今年の夏休みに入って数日経ったある日のことだった。
前日に遠征から帰ってきて、久しぶりに部活が一日休みだったあの日。
日ごろの睡眠不足を解消し、心身ともにしっかり癒そうと、ゆっくりと眠りについた昨夜。
けれど私を目覚めさせたのは、妙な胸騒ぎだった。
夏の暑さによるものとは違う、嫌な汗で身体が濡れていた。
額の汗を拭いながら起き上がる。
視界の端に入った時計は、午前10時を指していた。
この不快な胸のざわめきは一体なんなのか。
言い知れぬ恐怖に、知らず眉を寄せていた。
自分の部屋を出て、階段を下りる。
家の中はしんと静まり返っていた。
母の車も靴もある。
出掛けていないことはわかったけれど、あまりの静けさを不審に思った。
母が、どこにもいない。
顔を合わせても言葉を交わさないとは言っても、別にお互いの存在を無視しているわけではなかった。
ただ、互いの琴線に触れないように、静かに暮らしていた。