夢みる蝶は遊飛する
何気なくダイニングテーブルを見やる。
白い封筒が二つ並べてあった。
一通には、『亜美へ』と母の字で書かれていた。
もう一通には、なにも書かれてはいない。
私は無意識に自分の名の書かれていない方を手に取り、封を切った。
中から出てきた同じように白い便箋に書かれていた最初の一文を読んだ私は、血の気が引くような気がした。
『亜美を置いて逝くことを、どうか責めてください』
置いて行く、ではなく、置いて“逝く”。
その意味を悟った瞬間、私はその手紙を投げ捨てて部屋を飛び出した。
家中を探し回った。
どこにも母はいなかった。
そして最後に、浴室を覗いた。
あの光景を、私は一生忘れることができないだろう。
浴槽いっぱいにためられた水。
それを紅く染めるのは、母の血液。
母は座り込んで浴槽にもたれかかり、左手をその中に垂らしていた。