夢みる蝶は遊飛する

「価値・・・・?」


泣きながら喚き立てた今の私の言葉のどこから、それを感じたのだろう。

涙で頬にはりついた髪を耳にかけ、呟く。


「あなたの価値は、経験。そうじゃない?」

「経験、ですか」


鼻をすすりながら、目じりの涙を指で拭う。

先生は一度席を立って、冷蔵庫からなにかを取り出した。

それをタオルにくるんで私に差し出す。

目を冷やした方がいい、と言われてそれを見ると、保冷剤だった。


「今のあなたは全部失っているのかもしれないわ、あなたの言うとおり。でも、だからといってあなたのこれまでが無くなったわけじゃない」


保冷剤を目に当てているため、声しか聞こえない。

けれど私は先生が、柔らかく微笑んでいる気がした。


「あなたの経験は、あなたの中にちゃんとあるのよ」


胸の奥が、太陽に照らされたようにあたたかくなった気がした。


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