旦那様は社長 *②巻*
美海さんの顔が、一瞬悲しい色に染まった気がした。
今のは、過去の自分の体験……?
一條社長も、ワケありの過去をほのめかしていた。
だからもしかして……
『誰かの経験です。生まれて27年間ずっと、たった1人の人しか『男』に見えない女性の』
『そうですか……。その人に伝えて下さい。二度と妻に、同じ思いをさせないと』
美海さんは、安心したようにフワリと優しい顔で笑った。
すごく魅力的で、愛に溢れた女性。
そこで笑っているだけで、周りを幸せで温かい空気に変える。
きっと彼女は、随分遠回りをして今の幸せを掴んだに違いない。
『無駄にしません。あなたの貴重な経験を』
『あら。あたしって言いました?』
『……いえ。たった一度で、最高で最後の恋を見つけた素敵な女性に伝えて下さい』
彼女は白くて透き通るような肌を、ほんの少し赤く染めながら言った。
『早く行ってあげて下さい。私は念のため、お医者様を呼んでくるので』
再び彼女に背を向け、部屋の前まで走っていくと、震える手をドアノブに伸ばした。
ーーガチャ
恐る恐るドアを開け、ゆっくり足を踏み入れる。
すると、ドアが完全に閉まる寸前に、後ろから声が聞こえた。
『ごゆっくり』
……ごゆっくり?
少し疑問に思いながらも、静かに一歩一歩部屋の奥に足を進めていく。
だけど、部屋の中心に配置されている、存在感たっぷりのキングサイズのベッドには光姫の姿はなかった。