愛ノアイサツ
コンサート当日、結局パーカーの持ち主は現れずチケットと一緒に私の病室の隅にある机に残ってしまっていた。もしかするとチケットをどこにしまったか忘れてしまっていて、このパーカーに入れっぱなしのまま気づかずにいるのかもしれない。きっと今頃必死になって探しているはず。

「よし!」
時計を見ると5時半。開演は7時からって書いてあったから今から行けば会場で渡せるかもしれない。それに直接お礼も言いたい。

なんだか急に力が湧いてきて、数少ないパジャマ以外の私服を着て、去年看護師さんがプレゼントしてくれた大き目のバックに財布とパーカーとチケットを大切に詰め込んで、私はこっそりと病室を抜けだした。


途中何度も人に尋ねながらなんとかコンサート会場に到着した。そこはすでに人気はなく備え付けられた立派な掛け時計は6時55分を示していた。おろおろとしていると小走りでスーツを着た受付の男の人がやってきて声をかけた。

「どうしました?」
「あの・・・このチケット・・・」

私がバッグからチケットを取り出すと男の人は慌てて私をホールまで連れて行って席に着くように促してそのままどこかへ行ってしまった。

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