愛ノアイサツ
朝起きて早速白木さんに熱っぽい、と電話を入れて来週の打ち合わせをすっぽかし、僕は双葉総合病院に車を走らせていた。

頭の中では、名前も思い出せない、しかも本人かどうか確認すらしていない子に会いに行くなんて無謀だって分かっていたけど、それでもじっとしてなんかいられなかった。会うことはできなくても、せめて一目だけでもいいからあの子に会いたかった。

駐車場に車を停め勇気を出して病院の入口に立った。自然と受付に足を進めたが、はたっと立ち止まる。

あの子の名前知らないんだ・・・・・・

やっぱり無謀だったかな……なんてため息をつき、つい数日前にあの子が座っていたベンチを見た。そこにはやはり誰もいず、中庭では2、3人の子供がボールを蹴って遊んでいた。

なんとなしに中庭に出てあの日あの子が座っていた場所に腰掛ける。それだけでなんだかここが特別な場所な気がして、体の熱が上がる。

どうかしてるな、僕は

あの子と同じように目をつむり、穏やかな空の下心地良い風に体を任せる。


そしていつの間にかトロトロと眠りの深淵に落ちてしまっていた。

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