愛ノアイサツ
「あら。雪乃ちゃん、鼻歌なんか歌っちゃって・・・何かいいことでもあったの?」

「ふふ、秘密です。」

仲良しの看護師さんが聞いてきたけど、私は人差し指を口元にくっつけて内緒のポーズをした。だってなんとなく誰にも話したくなかったから。

こんなにわくわくするの久しぶり。だってあの時あんなに遠くに感じたあの人が、昨日私のすぐ横にいたんだもん。しかも私のために演奏してくれるって言ったんだもん。すごく優しい瞳で私を見て、低くて少しハスキーな声で「いいよ。」って言ってくれたんだもの。これはずっと病院にいた私への神様からのプレゼントなのかな。

「雪乃ちゃんがそんなに嬉しそうな顔するの初めて見たわ。もうお薬飲んだ?」

「飲みましたよ。ほら。」

私が指差した机の上にはいくつもの空の錠剤の入れ物が置いてあった。あんなに一度に飲んで平気なの?って聞かれたことがあるけど、小さい頃からあれぐらい飲んでたから全然平気だよって言ったら更に驚かれた。そっか、やっぱり・・・って思うこともあるけど、飲まなきゃ治らないからちゃんと毎日欠かさず飲んでるんだ。

ふっと窓の外を見た。昨日と同じくらい好い天気。明日が楽しみだな。ドキドキする胸をそっとおさえて、緩んじゃう顔を一生懸命隠した。


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