愛ノアイサツ
その日はさっさと練習を切り上げて車に乗り込んだ。楽器を助席に乗せて、はやる気持ちを抑えながら車を出す。車内の時計を見ると4時14分。本当はもっと早く終わらせるつもりだったのに指揮者が妙な注文ばかりつけるから練習が延びてしまった。ここからあの病院までは車で30分くらいだ。途中渋滞になっていないことを祈りながら、あの子は今何をしているのかな、なんて考えていた。


「あ、本当に来てくれた!!」

病院の受付に声をかけようとしたら、後ろから明るいトーンの声が聞こえた。

「あれ、ここで待ってたの?」

「はい。そろそろかなぁって。」

そう嬉しそうに僕を見上げる瞳にくらっとした。

「来てくれたって・・・僕は信用されてなかったかな。」

「え、だって、今でも信じられなくって・・・まさか城田さんが私のためにここまで来てくれるなんて、なんだか不思議だなぁって。」

確かにそう思われてもおかしくはないけど・・・僕はあの日から、今日のことで頭がいっぱいだったんだけどなぁ。

「そうだ、看護師さんに許可もらっておいたんです。さすがに病室はだめだけど、中庭なら音出してもいいよって。大丈夫ですか?」

「うん。まだそんなに暗くないし、楽譜は見なくても弾けるから。」

「よかった!じゃぁ早速行きましょう。」

僕の手を引っ張って中庭へと向かう後姿を見つめる。たぶん小柄なほうなんだろう。肩幅も狭く僕の手をつかむ手も小さい。年はたぶん19だから、無邪気な仕草を見ていると同年代の女の子より少し子供っぽいところがあるのかもしれない。確かにこんな風に病院に入院しているのを見れば、まともに学校に行ったりもできないのだろうと思った。

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