愛ノアイサツ
「なんだか偉そうなこと言ってすみません。」

「いや、君の言うとおりかもしれない。なんだかとても大切なことに気づかされた気がするよ。」

そう言って微笑むと、雪乃は顔を赤くしてぎこちないがふわりと花のような笑顔を向けた。


思わず手を伸ばしかけた。あぁ、こんなにも愛おしい。僕はもうすでにどうかしてしまったらしい。こんなにも心惹かれる、憧れる。それまでの僕にはあまりにまぶしくて、見上げれば目を細めてしまう。それでも手を伸ばして必死に君を求めてしまう。


それから暫く僕の最近あった話やクラシックの話をすると、雪乃は本当に楽しそうに聞いてくれた。僕はあまり話すことはうまくないから全然話の内容はまとまってなかったけど、やっぱり雪乃は真剣に、わくわくした目で僕の話をきいてくれた。
こういうところ、かわってないなぁなんて思って頬が緩む。



「あ、もうこんな時間!」

雪乃が壁にかかった時計を見て驚いた声を出した。わずかに残念そうな声色が混じっていたと感じるのは僕の自惚れかな。

「こんな時間まで付きあわせっちゃってごめんなさい。城田さん忙しいのに・・・」

「そんなことないよ。とっても楽しかった。」

申し訳なさそうに眉を下げる雪乃の頭をポンポンと軽くたたくと、雪乃が恥ずかしそうに顔を下に向けた。

「あの、これ、ありがとうございました。」

雪乃がパーカーを差し出してきて、僕がそれを受け取る。後ろ髪引かれる思いで椅子から立ち上がり置いておいたケースを肩にかけ病室のドアを開けた。雪乃がすぐ横にやって来て寂しそうな顔をする。

「今日は本当にありがとうございました。とっても楽しかったです。」

そう微笑む雪乃がなんだかとても儚く見えた。

「僕のほうこそ、すごく楽しかった。」

本当はもっと言いたいことがたくさんあったはずなのに、いざとなるとやっぱり何も言えない自分がもどかしかった。それでもこれだけはと思って、少し進んだところで立ち止まり病室のドアの前に立つ雪乃へ振り向いた。

「また、来てもいいかな?」

そういった僕に雪乃が花開くように、とてもきれいに笑った。

「はい。」
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