今日から執事
暫くお互い無言状態だったが、それをアンが破った。
『やるわ』
「えっ」
思わず聞き返した早綺に、アンは苦笑を漏らした。
『調べるって言ったのよ。早綺が知りたい情報、私が根こそぎ教えてやるわ。
でも、早綺』
そこでアンは声のトーンを落とした。
それに合わせて早綺も携帯電話をより耳に近づける。
『あたしは、人の過去を知ることに意味があるとは思えない。だってそうでしょ?
過去なんて所詮は昔。昔なんかより今が大事だと思わない?』
「それは、」
早綺はアンの咎めるような物言いに言葉を濁した。
確かに昔など今と比べたら何の意味も持たないのかも知れない。
けれど、昔と今、両方が存在するからこそ今があるのだ。だから早綺には今だけに価値があるとは到底思えなかった。
それに過去を知ることは即ちその人に触れる事だと早綺は考えている。
真斗の過去に触れて、少しでも真斗に近付きたいと、そう思ってやまない。
「私は昔と今、両方大切だと信じてる。
どんなに勝手だと分かっていても、それでも知りたい。意味があると信じたいの!」
強い口調で断言する。
ふと、部屋の空気が移動した。
夏の夜の幾らか冷たい風が肌を撫でる。
早綺は目を閉じ、心地よさを全身で感じた。
『それでいいわ』
直後、今までのアンとは全く違う優しい声が響いてきた。