世界の説明書
「ママ?パパ? どこにいるの、真っ暗で何も見えないよ、怖いよ、怖いよ、何で夜なの、電気をつけてよ、パパ、パパ、なんで隠れるの、名子に顔を見せてよ、意地悪しないでよ、どこ、どこなの?」

 すうっとした寒気が明子の背中に降りてきた。正人が感じていた何かへの嫌な予感が、確実な現実となり正人の全身の血を凍らせた。普段から嘘を吐いてはいけないと名子に諭している明子だが、今回だけは、目の前で目を開けている名子の言葉が嘘であって欲しいと願った。


「な、何を言っているの、ママは目の前にいるでしょう。ここよ、ほら、ここよ」
と明子は名子の手を握り寄せ、名子の瞳を食い入るように見つめた。

 正人が狂ったように病室を抜け出し、医者を連れてきた。


 すぐに名子の手術をした担当医が現れた。五十歳くらいの顔中に威厳のある皺が深く刻まれた男の医者はゆっくりと、諭すように正人達に向かって話し始めた。

「誠に申し上げにくいのですが、落ち着いてよく聞いて下さい。いいですか。」

 と医者は一呼吸おき、続けた。
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